「乗り換え先はBitwardenに決めた。それでも手が止まる」——パスワード管理アプリの移行が後回しになる一番の理由は、料金の計算でも機能の見比べでもなく、全サービスのログイン情報を一度ファイルに書き出すという工程そのものへの不安ではないでしょうか。書き出したファイルは暗号化されない平文です。扱い方を決めないまま見切り発車すると、移行作業そのものがセキュリティ上の弱点になりかねません。
本記事は、1PasswordからBitwardenへの移行を「書き出す前の準備」から「1Passwordの解約」まで5ステップの実行手順としてまとめたものです。どのデータが自動で渡り、どれが手作業になり、どれが渡らないのか——先に全体像を固定してから、安全に進めます。
最初に決めるのは、書き出し形式・TOTP・自動入力の主導権
- 書き出し形式:1Password 8なら.1pux一択。CSVはメモ・カード・カスタム項目が欠けます
- TOTPとパスキー:自動で渡らない前提で再設定の時間を確保。ワンタイムパスワード生成はBitwardenでは有料機能(Premium 年$19.80)です
- 自動入力の主導権:1Passwordの拡張機能を無効化しないと、新旧の入力候補が衝突し続けます
- 移行の全体像:データの引っ越しは短く、再設定が長い
- 動かすデータの棚卸し:自動で渡る・手作業・渡らないの3分類
- ステップ1|Bitwardenの受け皿を先に整える
- ステップ2|1Passwordから.1pux形式で書き出す
- ステップ3|Bitwardenウェブ保管庫にインポートする
- ステップ4|移行結果を検証する:件数・ログイン・TOTP・パスキー
- ステップ5|自動入力の主導権を切り替えて、1Passwordを手放す
- 機能対応表:1Passwordでやっていたことは、Bitwardenのどこにあるか
- 乗り換えで持ち込めないもの:割り切りが必要な4つ
- よくある質問
- まとめ:鍵束の引っ越しは「書き出す前」に8割決まる
移行の全体像:データの引っ越しは短く、再設定が長い
最初に時間の見積もりを正しておきます。エクスポートとインポートという「データの引っ越し」自体は、登録件数が数百件あっても合計10分前後で終わります。時間がかかるのはその後で、ワンタイムパスワードの確認・パスキーの再登録・ブラウザとスマホの自動入力切り替えといった再設定の工程です。登録サービスの多い人ほど、ここが30分〜数時間に伸びます。
つまり「週末にまとめて半日」ではなく、データ移行と動作確認だけ先に終わらせ、再設定は使いながら数日かけて消化するのが現実的な進め方です。本記事のステップ1〜4が前半、ステップ5と再設定が後半に当たります。
👤 この手順書が向いている人
- 移行先をBitwardenに決めていて、あとは実行するだけの人
- 1Password 8(デスクトップ版)を使っている人
- 書き出しファイルの安全な扱い方まで含めて確認したい人
なお、Bitwardenにするか1Passwordを続けるか迷っている段階なら、先にBitwarden vs 1Password|2026年の現実解で判断材料を整理してください。Bitwarden以外の移行先候補は1Passwordの代わりになる無料パスワード管理アプリ7選で比較しています。
動かすデータの棚卸し:自動で渡る・手作業・渡らないの3分類
作業前に、1Passwordの中身を3つに仕分けします。この分類を知らずに始めると、「移行できたつもりで欠けていた」が起きやすいポイントです。
| 区分 | 対象データ | 対応方法 |
|---|---|---|
| 自動で渡る | ログイン情報/セキュアメモ/カード/住所/フォルダ構造 | .1puxファイルのインポートで一括移行 |
| 手作業になる | 添付ファイル(書類画像・PDF等)/ワンタイムパスワード(TOTP)の一部/家族・共有ボルトの権限設定 | 移行後にBitwarden側で個別に再設定 |
| 渡らない | パスキー/Watchtowerの監視履歴/Travel Modeの設定 | 各サービスでパスキー再登録、機能は代替か割り切り |
※ 2026年6月時点、1Password・Bitwarden各公式ヘルプの仕様に基づく分類です。
とくに注意したいのが添付ファイルです。1Passwordの項目に保険証の画像やライセンスキーのPDFを添付している場合、.1puxインポートでは渡りません。どの項目に添付があるかを先にメモしておき、ステップ4の検証時に手動で付け直します(Bitwardenの添付機能はPremium以上)。
ステップ1|Bitwardenの受け皿を先に整える
書き出しより先に、受け入れ側の準備をすべて済ませます。平文ファイルが存在する時間を1分でも短くするためです。
手順は次の4つです。
- アカウント作成:Bitwarden公式サイトから登録します。サーバーリージョン(米国/EU)を選べるので、こだわりがなければ既定の米国で問題ありません
- マスターパスワードの新規作成:1Passwordと同じものを使い回さず、長いパスフレーズ(日本語ローマ字3〜4語の組み合わせ等)を新しく作ります
- Bitwardenアカウント自体の2段階認証を有効化:設定 → セキュリティ → 2段階認証ログインから、認証アプリ方式を設定します。無料プランで利用できます
- アプリと拡張機能のインストール:デスクトップアプリ・ブラウザ拡張・スマホアプリを入れます。ただしこの時点では自動入力をオンにしないでください。1Passwordと入力候補が二重に出て混乱します
1Passwordのマスターパスワードには「Secret Key」という第2の鍵が組み合わさっていましたが、Bitwardenはマスターパスワード1本+2段階認証という設計です。だからこそ、パスフレーズの強度と2段階認証の有効化が移行初日の必須作業になります。
ステップ2|1Passwordから.1pux形式で書き出す
1Password 8のデスクトップアプリ(Windows/Mac/Linux)で書き出します。.1puxファイルの書き出しはデスクトップ版のみのため、モバイル中心で使ってきた人もこの工程だけはPCが必要です。
- 1Passwordアプリを開き、ロックを解除する
- 「ファイル」メニュー(環境によってはサイドバー上部のアカウントメニュー)から「エクスポート」→ 対象アカウントを選択
- アカウントパスワードを入力
- 形式は「1Password Unencrypted Export(.1pux)」を選んで書き出す
形式選びで迷ったら.1puxにしてください。理由は単純で、CSVに含まれるのはログイン系の項目が中心だからです。セキュリティ質問やカスタムフィールドはCSVに出力されず、メモやカード類の情報も欠けやすくなります。.1puxなら全フィールド・全項目タイプが対象です。
書き出しファイルの置き場所ルール
エクスポートされたファイルは暗号化されていません。次の3点だけ守ってください。
- 保存先はローカルの一時フォルダにする。デスクトップや「ドキュメント」がOneDrive・iCloudの同期対象になっているPCでは、同期されない場所(例:
C:\temp)を選ぶ - メール添付・チャット送信・USBコピーをしない
- インポート完了の検証が終わったら即削除する(ステップ5で実施)
ステップ3|Bitwardenウェブ保管庫にインポートする
インポートはブラウザのウェブ保管庫から行うのが確実です。
- Bitwardenウェブ保管庫にログイン
- 「ツール」→「データのインポート」を開く
- インポート先(個人の保管庫)と、ファイル形式「1Password (1pux)」を選択
- ステップ2のファイルを指定して「データのインポート」を実行
数百件規模でも処理は数分で終わります。完了するとログイン・メモ・カード・住所が項目タイプごとに振り分けられ、1Password側のボルト構造はフォルダとして再現されます。
ここでの注意は1点だけ。Bitwardenのインポートは重複チェックをしません。エラーが出たように見えて2回実行すると、全項目がそのまま二重登録されます。実行は1回、結果は次のステップの件数確認で判定してください。万一二重になった場合は、Bitwardenの保管庫を一度空にしてからやり直すのが早道です。
ステップ4|移行結果を検証する:件数・ログイン・TOTP・パスキー
「インポート成功」の表示だけで安心せず、4点を順に確かめます。
| 検証項目 | 確認方法 | 合格ライン |
|---|---|---|
| 件数の突合 | 1Passwordの項目数とBitwardenの項目数を見比べる | 件数が一致(アーカイブ済み項目の扱い差は許容) |
| 実ログイン | 銀行・メイン決済・主要メールなど重要5件で自動入力テスト | 5件すべてログイン成功 |
| TOTP | ワンタイムパスワードを設定していた項目を開き、認証コード欄を確認 | 欠けていたら元サービスの設定画面から再登録 |
| 添付ファイル | 棚卸しでメモした添付つき項目を確認 | Premium契約後に手動で再添付(または別保管に変更) |
TOTP(2段階認証のワンタイムパスワード)は、.1pux経由で引き継がれる場合と再登録が必要になる場合があります。さらに、引き継がれていてもBitwarden無料プランではコード生成機能自体が使えません。選択肢は2つです。
- Bitwarden Premium(年$19.80、約2,970円※1ドル150円換算)を契約してTOTP生成を一元化する
- 無料運用を貫き、TOTPはGoogle Authenticator等の認証アプリに分離する
パスキーは秘密鍵の性質上、エクスポートファイル経由では持ち出せません。パスキーでログインしていたサービスを書き出しておき、移行後にBitwardenの拡張機能経由で各サイトのパスキーを登録し直すのが確実です。
ステップ5|自動入力の主導権を切り替えて、1Passwordを手放す
検証が済んだら、入力の主導権をBitwardenへ移します。順番を間違えると「どの候補が正なのか分からない」状態になるので、上から順に実施してください。
- ブラウザ:1Passwordの拡張機能を無効化(削除でも可)→ Bitwarden拡張にログインし、自動入力をオン → ChromeやEdge本体の「パスワードを保存する」設定もオフにする
- iPhone/iPad:設定 → 一般 → 自動入力とパスワード で、入力元をBitwardenに変更し1Passwordのチェックを外す
- Android:設定 → パスワードと自動入力 → 自動入力サービスをBitwardenに変更
- エクスポートファイルの削除:ステップ2の.1puxファイルを削除し、ごみ箱も空にする
- 併用期間を1〜2週間置いてから解約:日常利用でBitwarden側に不足がないと確認できたら、1Passwordのサブスクリプションを停止します
1Passwordは支払いを止めるとアカウントが凍結状態になり、新規追加はできなくなりますがデータの閲覧とエクスポートは引き続き可能とされています。「解約した瞬間に何も見られなくなる」わけではないので、更新日の直前まで併用して見極める運用が安全です。
機能対応表:1Passwordでやっていたことは、Bitwardenのどこにあるか
移行後に「あの機能はどこ?」と探す時間を減らすための対応表です。
| 1Passwordでの機能 | Bitwardenでの対応 | プラン | 補足 |
|---|---|---|---|
| ログイン保存・自動入力 | ◎ ログイン項目 | 無料 | フォルダ構造ごと移行可 |
| セキュアメモ | ◎ セキュアメモ | 無料 | .1puxで自動移行 |
| クレジットカード・住所 | ◎ カード/ID項目 | 無料 | .1puxで自動移行 |
| ワンタイムパスワード生成 | ○ 認証キー(TOTP) | Premium 年$19.80 | 無料なら認証アプリに分離 |
| ファイル添付 | ○ 添付ファイル(計5GB) | Premium 年$19.80 | 自動移行されず手動で再添付 |
| 家族との共有 | ○ Families(6人) | 年$47.88 | 共有の権限設定は手動で再構築 |
| パスキーの保管 | ◎ パスキー対応 | 無料 | 移行不可・各サイトで再登録 |
| 漏洩チェック(Watchtower) | ○ 保管庫の健全性レポート | Premium中心 | 自動通知型ではなくレポート型 |
| Travel Mode | × 対応機能なし | — | 渡航前の手動整理で代替 |
| SSH鍵・Git署名 | △ 連携は限定的 | — | 開発用途は1Passwordが先行 |
※ ◎=同等に使える / ○=条件つきで使える / △=部分的 / ×=非対応
※ 2026年6月時点の各公式情報より。最新は公式でご確認ください
関連: 両者の料金・設計思想の違いはBitwarden vs 1Password|2026年の現実解、KeePassXCやProton Passを含む移行先の全候補は1Passwordの代わりになる無料パスワード管理アプリ7選で詳しく整理しています。
乗り換えで持ち込めないもの:割り切りが必要な4つ
乗り換えガイドとして、移行しても再現できない機能を正直に挙げておきます。ここが許容できるかどうかが、解約ボタンを押す前の最終チェックです。
| 持ち込めない機能 | 現実的な代替策 |
|---|---|
| Travel Mode | 渡航前に機密項目を手動整理(または1Password併用) |
| Watchtowerの自動通知 | Bitwardenのレポートを月1回手動確認 |
| SSH鍵・Git署名の統合 | 開発用途が日常なら移行見送りも検討 |
| Secret Keyの二鍵設計 | 長いパスフレーズ+2段階認証の必須化で補強 |
1. Travel Mode(渡航時にボルトを端末から消す機能)
国境検査などの場面で特定ボルトを端末上から一時的に消す1Password独自の機能で、Bitwardenに相当機能はありません。海外渡航が多い人は、渡航前に機密項目を別フォルダへ移して手動整理するか、この機能のためだけに1Passwordを残すかの二択になります。
2. Watchtowerの「自動で知らせてくれる」体験
Bitwardenにも漏洩データの照合や脆弱パスワードの検出はありますが、自分でレポートを開いて確認するスタイルが中心です。受け身で警告が届く1Passwordの体験に慣れていると、最初は物足りなく感じます。月1回レポートを開く習慣で補うのが現実解です。
3. SSH鍵・Gitコミット署名の統合
開発業務でSSH鍵の管理やコミット署名を1Passwordに任せていた人にとって、Bitwardenの対応はまだ限定的です。この用途が日常にある人は、移行自体を見送る判断も含めて検討してください。
4. Secret Keyによる二重の鍵設計
1Passwordの「マスターパスワード+Secret Key」という二鍵構造は、Bitwardenにはありません。同水準の防御に近づけるには、長いパスフレーズへの変更と2段階認証の必須化(可能ならハードウェアキー)をセットで行う必要があります。ステップ1で先に済ませているのはこのためです。
よくある質問
Q1. Bitwarden無料プランだけで1Passwordの置き換えになりますか?
パスワード保存・自動入力・パスキー保管・複数デバイス同期といった中核機能は無料プランで賄えます。境界線になるのはワンタイムパスワード生成と添付ファイルで、この2つを使っていた人は認証アプリへの分離か、Premium(年$19.80)の契約かを選ぶことになります。
Q2. 1Password Familiesで家族共有していた場合はどうなりますか?
共有ボルトの中身は.1puxに含めて書き出せますが、「誰に何を共有するか」の設定は引き継がれません。Bitwarden側でFamiliesプラン(年$47.88・6人まで)を契約し、組織(Organization)とコレクションを作って共有関係を組み直す流れです。家族メンバーごとのアカウント作成も必要なので、1人の移行より1〜2時間多めに見てください。
Q3. 1Passwordの解約はいつすればいいですか?
ステップ4の検証完了から1〜2週間の併用期間を置き、日常の自動入力で困らないと確認できてからが安全です。年払いの人は更新日を先に確認しておくと、移行スケジュール全体をその手前に組めます。支払い停止後のアカウントは凍結状態となり、閲覧とエクスポートのみ可能になります。
Q4. エクスポートした.1puxファイルの安全な処分方法は?
通常削除のあとごみ箱を空にすれば、実用上のリスクは大きく下げられます。加えて、書き出しから削除までの時間を短くすること、クラウド同期フォルダに一度も置かないことのほうが効果的です。同期フォルダに置いてしまった場合は、クラウド側のごみ箱・バージョン履歴からの削除も忘れずに行ってください。
Q5. パスキーは本当に移行できないのですか?
.1puxやCSVといった従来形式のエクスポートには、パスキーの秘密鍵は含まれません。iOS 26以降ではFIDOの新標準(Credential Exchange)による管理アプリ間の直接転送が始まっていますが、対応サービスや環境がまだ流動的です。2026年6月時点では、移行後に各サービスでパスキーを登録し直す方法が確実といえます。
Q6. LastPassなど他のアプリからBitwardenへ移る場合も同じ手順ですか?
大枠は同じで、違うのはエクスポート元の操作とインポート時の形式選択だけです。BitwardenのインポートはLastPass(CSV)を含む数十種類の形式に対応しています。本記事の「受け皿を先に整える→書き出す→取り込む→検証する→切り替える」という順番は、どの管理アプリからの移行でもそのまま使えます。
まとめ:鍵束の引っ越しは「書き出す前」に8割決まる
1PasswordからBitwardenへの移行で品質を分けるのは、インポートの操作ではなく書き出す前の段取りです。受け皿(アカウント・2段階認証・アプリ)を先に整え、.1pux形式と置き場所を決めてから書き出せば、平文ファイルが存在する時間は最小になり、データの欠落も棚卸し表どおりに予測できます。
移行後は、TOTPと添付ファイルの扱いで無料運用かPremium(年$19.80)かを選び、パスキーは使いながら再登録していけば十分です。Travel ModeやSSH統合のような1Password固有の機能に依存していなければ、この5ステップで運用は問題なく回り始めます。
1〜2週間の併用で不安が消えたら、1Passwordの更新を止めて移行完了です。まずはステップ1のアカウント作成から始めてみてください。
※ 本記事の料金・仕様は2026年6月時点の各公式サイト情報に基づきます。最新情報は公式でご確認ください。